行動変革プロデューサーの西谷信広です。
一般的なイメージとして、大手は優秀な人が
多いから、打ってでる施策も優秀と思う人、
多いと思います。
マーケティングにしても、周到であると、
考えがちです。しかしマーケティングこそ、
パターン化された進め方を嫌い、行動し、
思考し、修正する、という活動が必要です。
行動変革のマーケティングが求められます。
さて、今回はトヨタの新サービスKINTO(キント)を
取り上げ、事業成功に向けたマーケティングの
あり方を見ていきましょう。
トヨタの新サービスKINTOとは何か?
2019年の初頭から、サブスクリプション(定期)
サービスのKINTOを始めるとのことです。
これは月額定額制のサービスで、あらかじめ
決められた車種から自由に車を選択、使用
できるシステムなので、
理屈からいえば、例えばA車種を2か月使用して、
その後はB車種に乗り換える、ということも
可能ということ。
KINTOの名称は孫悟空の筋斗雲のように
求めるとすぐに表れるというところから
つけたそうです。
なお、保険や税金、そしてメンテ費用が
定額費用に含まれるため、使う側は月の定額料金
支払およびガソリン代を負担するのみで、
好きな車に乗ることができるわけです。
途中で他の車種に乗り換えることも可能です。
と、ここまではいいことづくめに見えます。
賢明なあなたならお分かりの通り、
時代はまさに所有から利用にシフトしています。
時代の要請にマッチしていると感じます。
ただ、いまだに定額料金が未発表ですし、
そもそも車種も発表されていません。
大切なポイントは、トヨタの新サービスが、
どれほど世の中の要求を満たしているのか、です。
所有から利用へ:ニーズとウォンツ
現在、自動車1つとってみても、色々なサービスが
出ています。中でも目立つのがカーシェアリング
ではないでしょうか。
従来のレンタカーとの違いを簡単に比較しました。
カーシェアリング | レンタカー | |
---|---|---|
月額基本料 | あり | なし |
利用時間 | 短時間可(30分以下) | 長時間(数時間から) |
予約 | ネット予約 | ネット予約、TEL、店舗 |
貸出 | 無人ステーション | 有人ステーション |
営業時間 | 24時間 | 営業時間内(20時位迄) |
拠点数 | 駅前、街中など拠点多数 | 駅前など場所に限りあり |
車種 | 少なめ ※1 | 多め |
乗り捨て | できない | 可の場合もあり |
保険費用 | 0円(月額基本料含み) | 必要なら加入 |
ガソリン代 | 0円(月額基本料含み) | 満タン返し |
(※1:運営会社によっては車種多めもあり)
比較表の中で目立つのは、選択できる車種の幅、
乗り捨て有無、そして保険やガソリンといった費用面。
また、貸し出しについては有人無人の差はありますが、
ざっくり言えば、“取りにいき” そして“その場所に返却”
すればいいということです。
短時間から必要な時に使えるカーシェアは面倒な手続きもなく
重宝されています。
昨今では、新築マンションの敷地内にカーシェアが装備され、
マンション住人が自由に借りられます。
予約さえしてあれば、あたかも自分の車のように自宅から
出かけて自宅に戻ることができます。
また、30分から借りられるのは、柔軟性があり魅力です。
レンタカーよりも利用しやすい面が色々とあります。
会員数も以下の表のように2010年以降、急速に伸びています。
このことからも、ニーズがいかに高いかがうかがい知れます。
ちなみに、2002年には21台だった車両数も、2018年には
3万台まで増えています。今後さらに増えていきます。
(ソース:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団調べ)
KINTOとカーシェアの違い
(1)いつでも望むタイミングで
KINTOはカーシェアとは違い、リースに極めて近い
サービスです。カーシェアのように使いたい時に使って、
その分だけの費用を支払えばいいわけではありません。
たしかに、カーシェアもエリアや曜日によっては早めに
予約をしないと、その時に必要な車種が借りられません。
しかし、これは会員数の伸びに合わせ、車種および台数が
増えることで整備されていくと考えられます。
(2)リースに近いKINTO
また、忘れてはならないのが駐車場の費用です。
KINTOを利用する人は、自分で駐車費用の負担を
します。車を所有しているのとの同じことです。
また、A車種からB車種へ乗り換える場合は、車庫証明を
取り直さねばなりません。
費用を払えばトヨタ店がやってくれるのでしょう。
しかし、豊田章男社長が言うように、簡単に車生活を
始め、車種変更したければして...
というほど、手続きを考えると簡単ではありません。
(3)ニーズによって選べる車種
今日は1人で所用で出かけるから、小型車で十分だ。
今回は仲間と出かけるから大きめの車種が必要だ
来週は久々のバーベキューだから荷物を積める車がいい...
つまり、用途に応じて車種も選べることがカーシェアの
利点であり、実際に求められていることです。
KINTOはニーズへの合致が欠けています。
用事の内容に応じてウォンツも発生するわけで、
高級車云々などという車種縛りでニーズが発生する
わけではないのです。
車種縛りならば、レンタカーなどで借りるほうが
結果的に気楽です。
(4)違う車種選定のタイムスパンが広い
2~3年毎に車種を変更可能なKINTOですが、前述した
ように、求められているのは、その時々の用途で車種を
選べることです。
KINTOが目指す2~3年では、あまりにスパンが広すぎる
わけです。
通常のリースで十分である、となるわけです。
(5)料金設定の違い
KINTOはリースに近いサービスですので、料金も決して
安くない設定になるはずです。保険、税金、メンテ費用も
含まれるのですから、極端に安くはできないでしょう。
一方、カーシェアは駐車場費用もかからず、そのうえ、
用途に合わせて車種を選択でき、また、30分単位で
利用できます。
ニーズとして大切なこと:必要なときに利用できること
ウォンツとして大切なこと:カーシェアにもっと幅広い車種を導入
KINTOのサービスは受け入れられるか?
おそらくリースを使っていた方が、試しに使ってみることは
あるでしょう。しかし、時代はシェアリングです。
所有から利用に移行しているのですから、マジョリティを
顧客化することは大変難しいと想定します。
トヨタは日本を代表する大企業です。日本のモノづくりのすごさを
世界に伝えた大切な企業の1つです。また、日本で唯一、利益が
2兆円を超える大企業です。
色々な面で優秀な企業でも、方向性がずれているサービスを
打ち出してしまうこともあるのです。
つい、我々は一流企業=正しいと考えがちではないでしょうか?
しかし、よく調べるてみると必ずそうだとはなりません。
現実を正しくとらえ、何が正しいのかを突き詰めることで、
正しい判断はできます。
中手企業より大企業の判断が正しいとは限りませんし、
本当に大切なことは、どこまでしっかり考えて活動を
しているかだと、思います。
KINTOのサービスに、何かよほどのメリットが追加でも
されれば別ですが、現状発表されている内容に基づくなら、
大きな成功に繋がるとは考えにくいのです。